十勝を出発したのは、秋が深まる10月のこと。屈斜路へ向かう夜道は、季節の移ろいを感じさせるほどに冷たかった。
夜中の移動。ヘッドライトが照らす道路の先に、突然、大きな雄鹿が立っていた。
呼吸が止まった。
目が合った。人間と野生が、同じ瞬間を共有する。その時間は、言葉では説明できない何かを持っていた。彼は何を思っていたのか。同じ秋の夜を、どう感じていたのか。やがて、鹿は闇へ消えた。
屈斜路に着いた時、夜明けが近づいていた。
湖面は静寂に包まれていた。秋の屈斜路は、そういう場所だ。木々は色づき、風は冷たく、すべてが季節の終わりを告げている。
竿を握った。エムアイレMG53-MLCの柔らかな曲線が、手に馴染む。リールはアブガルシアアンバサダー2500C。何度も一緒に過ごした相棒だ。
ルアーを投じる。
糸が張る。
やがて、反応があった。
ヒメマスが浮かぶ。その魚体は、秋色に染まっていた。朱色、金色、深い紫。命が色を変える季節。釣り上げた瞬間、その美しさに息を呑んだ。
自然は、いつも美しい。
しかし、その美しさは単なる風景ではない。それは、問いかけてくる。
君は、何を見ているのか。
君は、何を感じているのか。
君は、なぜここにいるのか。
秋の屈斜路で、湖面に映る空を見ながら、そんなことを考えた。人間も、野生も、同じ季節を生きている。その事実が、胸に残る。
鹿との出会い。ヒメマスの美しさ。冷たい秋風。すべてが、一つの物語を紡いでいた。
自然は、師であり、鏡であり、試練である。
そして、その前では、誰もが等しく小さい。
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